2024 活動報告書を掲載しました

平素より私たちの活動をご支援いただき、誠にありがとうございます。

このたび、2024年度(第59期)の活動報告書をホームページに掲載いたしました。本年度は、ラオス班および子ども心理支援班による国内外での調査・研究活動を中心に、多岐にわたる活動を行ってまいりました。

本報告書では、それらの活動内容や得られた成果についての詳細を掲載しています。ぜひご一読いただき、今後の私たちの活動にも引き続きご支援・ご助言を賜れますと幸いです。

以下は、今年度の活動報告書の概要です。活動報告書の全文PDFはページ下部にございます。


今期の主な活動とご挨拶

【役職名の変更について】

今期より、当研究会の実情に合わせて、より分かりやすい組織運営を目指すため、役職名の変更を行いました。これまで教員の先生にお願いしておりました「会長」職を「顧問」に、学生の代表である「総務」を「部長」に変更いたしました。これは、当研究会が学生主体で運営されている団体であることを明確にし、内外の交流を円滑に進めるための変更です。運営体制そのものに変更はございませんが、何卒ご理解いただけますようお願い申し上げます。

【顧問・部長からのご挨拶】

6年間にわたり顧問を務めていただいた二宮利治先生からは、ラオス班と子ども心理支援班、両班の活動に対する温かい労いのお言葉をいただきました。先生ご自身、2025年度をもって顧問を退任されるとのことで、これまでの多大なるご支援に部員一同、心より感謝申し上げます。


活動報告

今期は「ラオス班」と「子ども心理支援班」の2つの班が、それぞれ国内外で精力的な調査・研究活動を行いました。

【ラオス班】

■活動目的

ラオスの少数民族社会では、近代的な医療を提供する「医師」と、伝統的な儀式で治療を行う「呪術師」が同程度に信頼されている、この事実に衝撃を受けたことをきっかけに、ラオス班は「病院外で行われている医療とは何か」をテーマに活動を開始しました。西洋医学だけでは捉えきれない、人々の生活に根差した医療の実態を調査し、ラオスの医療が抱える課題について考察することを目的としました。

■現地調査から見えてきたこと

班員たちはラオスに渡航し、多角的な調査を実施しました。

ラオ・フレンズ小児病院訪問と訪問看護同行:

ルアンパバーン県にあるラオ・フレンズ小児病院では、日本発の団体による支援で質の高い医療が提供される一方、廊下にまで患者が溢れるほどの需要過多や、付き添いの家族が中庭のテントで生活する厳しい現実を目の当たりにしました。また、山間部への訪問看護に同行し、栄養失調の乳幼児や、てんかんを患う少年との交流を通じて、経済的・地理的な障壁、そして医療情報が届かないことの深刻さを肌で感じました。

現地住民への聞き取りと街の散策:

都市部では、医師や学生、住民へのインタビューを実施。タイから輸入された風邪薬やビタミン剤が常備され、肩こりには湿布、頭痛には鎮痛剤が使われるなど、日本と変わらないセルフケアの実態が明らかになりました。一方で、薬局では抗生物質を含む医薬品が処方箋なしで購入可能であることや、軽傷の止血には庭に生えているグァバの葉を使うといった伝統的な知恵が今も引き継がれていることを発見しました。

文化に根差した慣習:

特に印象的だったのは、産後の母親が体を冷やすとされる食べ物を禁じられる「食事制限」の文化です。母子の健康を願う慣習が、結果として栄養不足を招くというジレンマに直面し、文化を尊重しながら科学的アプローチをいかに統合していくかという、深い問いを突き付けられました。

■考察と学び

一連の活動を通じて、私たちは西洋医学を絶対的なものと捉える自らの固定観念に気づかされました。医療とは単に病を治す技術ではなく、人々の価値観や生活、コミュニティと深く結びついた営みです。医療が時に人々を幸せにする一方で、その人の文化や価値観をないがしろにすれば、かえって不幸につながる可能性もある―。この視点を得たことは、将来医療に携わる私たちにとって何より大きな収穫でした。

■学会発表と今後の展望

これらの調査結果を「第106回東南アジア学会研究大会」にてポスター発表し、文化人類学など他分野の研究者の方々から貴重な意見をいただきました。今回の活動を一度きりで終わらせることなく、今後もラオスとの繋がりを大切にし、うつ病や薬用植物の利用実態など、今回新たに見えてきたテーマについて、さらに深い考察を続けていきたいと考えています。

【子ども心理支援班】

■活動目的

現代の子どもたちが抱える心の問題は、虐待、発達障害、いじめなど多岐にわたります。早期に適切な支援がなされなければ、こうした問題がその後の人生に深刻な影響を及ぼす場合もあります。私たちは、子どもたちのSOSをいかに早期に発見し、効果的な支援に繋げるかという課題意識から「学校と医療が連携した、より良い支援体制」を考察することにしました。

■調査活動の概要
インタビュー:

児童精神科医の先生や、知的・発達障害のあるお子さんの保護者・支援者が参加する「あいプロジェクト」の方々へ、オンラインインタビューを実施しました。お話を伺うなかで、「子どものこころの不調は不登校や自傷というサインで現れる」「支援学校でも、教員の先生の知識や熱意には差があることが多い」「保護者が学校と医療の橋渡し役を担うことになり、大きな負担となる」といったことが分かりました。

先進事例の調査と施設訪問:

久留米市の「のぞえ総合心療病院」を訪問し、入院期間の短縮や地域全体での社会復帰支援など、先進的な取り組みを学びました。また、学会参加や文献調査を通じて、埼玉県教育委員会の「メンタルヘルスリテラシー向上事業」や、名古屋市の「なごや子ども応援委員会」といった、自治体主導の先進的な取り組みについても知見を深めました。

■私たちが提案する理想の支援モデル

これらの調査を踏まえ、私たちは理想的な子どもの心理支援体制として、以下の3つの柱からなるモデルを提案します。

  1. 学校でのメンタルヘルス授業の実施:
    児童生徒が自らの心の状態に気づき、他者への適切な関わり方を学べる授業を、担任やカウンセラーなど身近な大人が行う。これにより、心の健康への偏見をなくし、相談へのハードルを下げます。
  2. 全生徒を対象とした多角的なスクリーニング:
    アンケート(QTA30など)と心理職による面談を組み合わせ、年に複数回実施します。これにより、自ら助けを求められない子どもたちのリスクを早期に発見し、個別の支援に繋げます。
  3. 地域ごとの「学校-医療連携チーム」の構築:
    熊本県の「こころの健康アドバイザー事業」を参考に、学校医、小児科医、精神科医、心理士などがチームを組み、日常的に学校からの相談に応じたり、事例検討を行ったりする体制を構築します。これにより、教員の負担を軽減し、専門的な知見に基づいた適切な支援を実現します。

この支援モデルの実現には多くの課題がありますが、子どもたちの健やかな未来のために、社会全体で取り組むべき重要なテーマであると確信しています。


結びと謝辞

本報告書は、部員一人ひとりが現場に足を運び、人々の声に耳を傾け、議論を重ねてきた汗と情熱の結晶です。私たちの活動が、皆様にとって何らかの気づきや考えるきっかけとなりましたら、これに勝る喜びはございません。

最後になりましたが、本活動を温かく見守り、ご指導くださいました顧問の二宮利治先生、活動の様々な場面で力強くサポートしてくださったOB・OGの皆様、そして貴重なご寄付を賜りました九州大学医学部同窓会「九友会」様、ラオスおよび国内での調査にご協力いただいた全ての皆様に、部員一同、重ねて心より感謝申し上げます。

熱帯医学研究会は、これからも医療と社会の課題に真摯に向き合い、探求を続けてまいります。今後とも変わらぬご指導ご鞭撻、そして温かいご支援を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

▼第59期 活動報告書(PDF)はこちらからご覧いただけます。